自分を襲った犯人を、聡は知っているのではないのか? そんな期待が、心のどこかに存在していた。
だが、何も聞かなかった。
聡が何をしようと、私には関係ない。
「その髪留め………」
フラフラと、美鶴の右手が持ち上がる。
「ひょっとして」
もしかして……
「蔦って子も、持ってるの?」
「あ?」
「その、マスコット」
「コウが髪留めなんて―――」
呆れたように笑う涼木の言葉を、勢いよく遮る。
「タイピンにはっ?」
その激しさに目をパチクリさせる。が、やがて照れたように頭を掻いた。
「あぁ まぁね 付けてるよ」
――――――っ!
なんだろう? なんだか、どうしても確かめなくてはいけないような気がする。
聡が何をしようと、私には関係ない。
そんな言葉で自分を誤魔化すにも、もはや限界がきているようだ。
動悸する胸に片手を当て、視線を落す美鶴。その姿に涼木が一歩前へ足を出し、そうして止めた。彼女の視線は、美鶴を通り越してその後ろへ――――
振り返った先で、瑠駆真が気まずそうに手をあげる。
「もうとっくに帰ったと思ってた」
まだこんなところにいたのかと、驚いてもいる。
「鞄」
少しぶっきらぼうに発せられた、瑠駆真の言葉。
「え?」
「鞄だよ」
自分の鞄を指差す。
「美鶴、自分の鞄さ、忘れてっただろ?」
ハッと自らの手を見やる。空っぽの両手。
「聡が持ってったよ」
瑠駆真が、肩を竦めて首を傾げる。
「後で届けるってさ」
「後で?」
「あぁ 鞄持ったまま、学校へ戻ったみたいだよ」
瑠駆真の右手が耳へ添えられる。電話を持つような仕草。
「携帯で呼び出されたみたい。たぶん、バスケ部の子からだと思うけど………」
ちょうどいい
美鶴は大きく息を吸った。
鞄が良い口実になりそうだ。
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